新選組の本を読む ~誠の栞~

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 船山馨『幕末の暗殺者』 

短編小説集。実際にあった幕末明治の暗殺事件を、創作も交えて描く12編を収録。
そのうち、新選組が大きく関わる作品は「詰腹競争」「雨夜の暗殺」「渦中の女」「薄野心中」の4編。

「詰腹競争」
あけぼの亭事件の当事者である会津藩士・柴司と土佐藩士・麻田時太郎
ふたりは、それぞれ藩の体面を保つため、競うかのごとく切腹させられる。

池田屋事件と、それに続く明保野亭事件を、会津藩の女隠密の一人称で描く。
人命軽視に対する悲憤と、犠牲者を悼む心情に貫かれている。
ただ、語り手の女隠密の心情には、近代の人権思想や民主主義が反映されているように感じられ、多少の違和感を持った。

また、新選組の面々が池田屋の場面に登場するが、事件の経緯は通説とだいぶ違う。たとえば――
  • 尊攘激派の密謀が発覚した直後、新選組だけでなく、守護職・所司代・町奉行の手勢も出動した。
  • 新選組と会津藩士を合わせた約40人が、池田屋にいっせいに乱入した。
  • 柴司と永倉新八が階段を駆け上り、柴が宮部鼎蔵を討ち取る。
  • 土方歳三が裏口を固め、近藤勇は表口にいて、屋内に入らなかった。
――等々。柴司をクローズアップするための創作だろうか。

「雨夜の暗殺」
佐野七五三之助は、入隊前から伊東甲子太郎と昵懇であった。
しかし、御陵衛士の分離脱退に加わらず、敢えて新選組に残留し、内部攪乱と情報収集の役目を担った。
そんな時、新選組の直参取り立てが決定するも、これを受けては勤王の志に相反する。
加えて、かねてより遺恨を抱く大石鍬次郎により、馴染みの娼妓が虐待された。
これ以上留まれないと決意した佐野は、同志らと計り、守護職に10人連名の脱隊嘆願書を提出する。
事態を知らされた近藤勇は、断固たる処置を主張。回答を待つ佐野ら4人に、制裁の刃が向けられる。

この事件に関して、死んだと思われた佐野が立ち上がり大石に斬りつけたという説があるので、作者は両者の間の遺恨を創作したのだろう。
ちなみに、佐野らの死については暗殺説と自殺説があるが、本作では暗殺説を採っている。
ただ、仮に暗殺とすると、守護職屋敷の外で実行するほうが怪しまれないのにわざわざ内部で殺害したこと、残りの6人は殺害しなかったことに、合理的な理由が見つからない。

「渦中の女」
芳賀宜道(作中では宜通)謀殺余聞。
親友同士であり、共に靖共隊(靖兵隊)を組織し新政府軍に抵抗した永倉新八と芳賀宜道は、密かに江戸(東京)へ戻り、潜伏していた。
そんな時、芳賀が義妹の夫・藤野又十郎に殺害される。又十郎は、妻・加奈江と芳賀との仲を疑っていた。
原因は、加奈江の姉、芳賀の妻である多津子の中傷だった。加奈江には、姉の心が理解できない。
やがて藤野は、新政府軍の一員として箱館攻略に参戦すべく、蝦夷地へ向けて旅立つ。
その後、多津子は行方知れずとなる。

芳賀が藤野に殺害され、藤野が箱館へ行く途中に死没したことは事実らしく、永倉新八『新撰組顛末記』にも記述がある(藤野は芳賀の妻の兄とされている)が、その他は作者の創作であろう。
ストーリーは、加奈江の視点で展開する。
彼女の相談相手となる永倉新八の、はにかんだような優しさ、さりげない心遣いが、印象的に描かれている。

「薄野心中」
明治初年の札幌に、薄野遊郭が建設される運びとなる。
現場で働く人足には、食い詰めた旧幕府方の失業武士も多い。
元新選組の斎藤一も、名を変え身分を捨て、黙々と作業に従事していた。
同僚の旧会津藩士・石坂保は、許嫁・志津と生き別れになっていたが、やがて薄野に送られてきた遊女たちの中に彼女がいることを知る。
監督官の伊牟田与市郎は、「賊崩れ」を叛意ありと睨んで一掃しようと企てる。
命を狙われた斎藤は、小樽へと去る。
しかし、石坂は罠にはまり、追い詰められたあげく志津と共に自害した。
その頃、桐野利秋が来道。
宴席に連なった伊牟田は深更、帰途につく。その行く手に現れた人足風の男こそ、斎藤であった。

斎藤一が人足に身をやつし北海道で働いていた、というのは創作であろう。
ただ明治2~3年か、動向の不明瞭な時期があるので、本作のような想像も全然できなくはない。

他の収録作品は、下記のとおり。★を付したものには、新選組隊士が端役で登場する。
「乱世の人」 清河八郎暗殺の陰で、命を落とした男女の哀切物語。★
「密偵往来」 姉小路公知暗殺の真犯人を突き止めた、会津藩の密偵の末路。★
「暗い目の志士」 岡田以蔵の暗殺録。愛しあった女との悲劇的な結末。
「女と天誅」 冷泉為恭暗殺の陰で錯綜する、妻の謎めいた言動と、長州・大楽源太郎の執念。
「はぐれ雁」 佐久間象山暗殺と松代藩の政争、真犯人と河上彦斎との秘められた関係。★
「隻腕無残」 宮部鼎蔵に心服していた、片腕の居合術の遣い手が、復讐の剣を執る。★
「近江屋事変」 坂本龍馬暗殺の真相を知り、武力倒幕を防ごうとする尊皇派志士。★
「ある叛逆者」 腹違いの妹を新政府軍人・種田政明に奪われた男が、神風連の乱に加わる。

現代書房(1967)、廣済堂出版(書名『幕末の暗殺者 定本』/1969)、角川文庫(1971)が出版された。

「雨夜の暗殺」は、アンソロジー『新選組傑作コレクション 興亡の巻』(河出書房新社/1990)、『誠の旗がゆく』(集英社文庫/2003)、『新選組興亡録』(角川文庫/2003)にも収録されている。

「薄野心中」は、アンソロジー『新選組傑作コレクション 烈士の巻』(河出書房新社/1990)、『新選組烈士伝』(角川文庫/2003)にも収録されている。

幕末の暗殺者



新選組興亡録
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新選組烈士伝
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