新選組の本を読む ~誠の栞~

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 東郷隆「墨染」 

短編小説。御陵衛士残党の阿部十郎らが、近藤勇を墨染で襲撃した事件を題材としている。

慶応3年3月、伊東甲子太郎の一党が新選組を分離脱盟し、禁裏御陵衛士を旗揚げした。
御陵衛士の一員となった阿部十郎は、新選組で砲術師範を務めていたことから、薩摩藩外交方・中村半次郎と知りあい、イギリス製のランカスターピストルを贈られる。

同年11月18日、油小路の変が発生。伊東を含む4名が新選組に殺害され、御陵衛士は壊滅した。
この夜、折悪しく外出していた阿部は、急ぎ戻ったが間に合わなかった。
新選組を迎撃して死のうと決意したものの、説得されて考え直し、薩摩の庇護を受ける。
生き残った同志達とも、なんとか再会できた。

12月、王政復古が成り、旧幕勢力は洛中を退去する。
新選組が伏見奉行所に在ると知った阿部らは、復讐の機会を窺った。
そしてある日偶然に、近藤勇が隊士の一団を率い、二条城から伏見への帰途にあることを知る。
同志総勢6名が、決死の覚悟で薩摩屋敷を出て、墨染に布陣した。
阿部と富山弥兵衛それぞれの手には、小銃があった。
そこへ、近藤一行の行列が近づいてくる。


阿部十郎(隆明)は、後年、史談会にて墨染狙撃事件に言及している。
作者は『史談会速記録』に掲載された彼の証言を主な参考として、本作を創作した模様。
作中の阿部は、事件後、狙撃を自分の手柄のように吹聴した篠原泰之進に腹を立てている。
『史談会速記録』の「同志の非を少々あばかねばならぬ」という阿部の証言を、巧く活かした展開である。
この他にも、『史談会速記録』を主軸に、その行間を埋めるようなストーリー設計がされていて、面白い。

作者は、銃器専門雑誌の編集部に所属し、戦場ルポを著すなどの前歴があり、銃砲火器に詳しい。
本作でも、多銃身輪廻式のランカスターピストル、エンフィールド小銃、ウィットオース小銃などが小道具として登場する。
その他の武具・防具、薩摩藩の近代兵器に対する姿勢などについても、具体的な記述がなされている。
それらに興味のない向きにとっては、「オタクの蘊蓄」のように思えるかもしれない。
しかし、こうしたディティールがしっかり描かれていることによって、作品のリアリティが増していると思う。

本作の初出は1996年の週刊誌掲載。下記の書籍に収録されている。

『本朝銃士伝』 講談社 1996
『歴史の息吹』 新潮社 1997
『誠の旗がゆく』 集英社文庫 2003
『時代小説 読切御免〈第3巻〉』 新潮文庫 2005
『銃士伝』(『本朝銃士伝』の改題) 講談社文庫 2007

余談ながら、作者の短編集『幕末袖がらみ』(文藝春秋/1998)も、新選組関連の作品が収録されているので、文庫本がぜひ出て欲しいところだ。

銃士伝
(講談社文庫)
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