新選組の本を読む ~誠の栞~

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 船山馨『幕末剣士伝』 

短編集。激動の幕末維新を生きた剣客・剣士たちを描く、評伝ふう小説9編。
収録作のうち、新選組に関わるものは、第七話「沖田総司」

「沖田総司」
芹沢鴨暗殺事件、池田屋事件、山南敬助の切腹、御陵衛士の分離、油小路の変などの出来事に沿って、沖田総司の行動と心理を追っていく内容。

作者は、沖田総司を、政治的思想も出世の野心も持たず、良くも悪くも「生きてゆくための自分の座標が欠落している」青年と解釈する。
「もしあるとすれば、彼にとってそれは近藤勇という人間」「尊攘浪士を斬りまくったのも」「ただ、それが近藤の意志だったから」であって、「沖田という若者の本当の怖ろしさ、不気味さはこの点にある」と分析している。
さらに、沖田にとって、近藤以外の人間はすべて等距離の存在であったが、唯一、親近感を抱いたのは山南敬助(作中では敬介)、とも解釈。
最後の、近藤と沖田との別離の場面では「そういう沖田を、近藤は愛してきたが、ついに理解することができなかった」と判断している。

ただし、作者が判断材料としている事柄自体が、必ずしも事実とは断定できない。
例えば、池田屋事件で沖田が喀血したとか、山南の死は脱走罪による切腹だとかいう説も、さも史実のように語られてきているが、確実な証拠は未発見なのである。
また、沖田にも本人なりの志があったものの、ただ記録に残っていないだけ、という可能性もある。作者がそれを考慮していない理由が、よくわからない。

沖田の人物像という主題からは逸れるが、作者が「尊皇=倒幕」と捉えて、佐幕派の近藤勇らが尊皇攘夷集団の浪士組に加盟したのは矛盾している、と述べているのも気になった。
当時の日本人は、大半が尊皇であった。
ただ、天皇と幕府との関係において、従前同様に幕府が天皇の代理として政治を行うべきとする「公武合体」と、幕府を廃し天皇が直接政治を執るべきとする「天皇親政」とが、相反していたのである。
「公武合体」に、天皇を蔑ろにする意図は含まれない。(実際の幕政が天皇の意思を反映しているか否かはもちろん別の話だけれども、孝明天皇は「公武合体」を是としていた。)
つまり、近藤勇らも尊皇主義であって、浪士組加盟にイデオロギー的矛盾はないのである。

そういう次第で、本作は歴史的考察として捉えるより、フィクションと割り切って楽しむほうが良さそうだ。
新選組に信頼や友情など甘さを求めず、ドライな感覚を好む向きに適しているだろう。

そのほか収録作は、「今井信郎」「渡辺吉太郎」「岡田以蔵」「伊庭八郎」「秋山要助」「河上彦斎」「榊原鍵吉」「勝小吉」
すべて『週刊小説』に、1974年7月から1975年3月にかけて断続的に連載された。

1975年、『幕末の刃影』と題して、河出書房新社から単行本が刊行。
1981年、『幕末剣士伝』に改題、同社より文庫版が出版された。

「沖田総司」は、下記アンソロジーにも収録されている。
『時代小説を読む 剣之巻』 大陸書房 1990
『日本剣鬼列伝』 大陸文庫 1992
『剣豪八番勝負』 富士見時代小説文庫 1995

幕末剣士伝



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