新選組の本を読む ~誠の栞~

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 立原正秋「橋の上」 

短編小説。明治初年、東京の両国橋での、永倉新八鈴木三樹三郎との邂逅を描く。

新政府軍に抵抗するも敗れ、密かに東京へ戻ってきた永倉新八。
かつて脱藩した松前藩に再び身を寄せ、藩邸内の長屋に暮らしていた。
ある日、両国橋を通りかかった時、雑踏の中ですれ違ったのは鈴木三樹三郎。
伊東甲子太郎の実弟であり、新選組を脱盟して御陵衛士となりながら、油小路の変で生き残った人物である。
互いにさりげない挨拶を口にしながら、息詰まる緊張のうちに相手の出方を窺ったものの、その場はそのまま別れた。
永倉は、この時感じた恐怖を反芻しつつ、来し方を様々に振り返るのだった。


この偶然の出会いについては、永倉新八『新撰組顛末記』、子母澤寛『新選組遺聞』にも記述がある。
作者は、この逸話に独自の肉付けをし、本作を創作している。

本作の永倉は、馴染みのおでん屋を経営するりくという後家と、深い仲になっている。
りくが、京都で死別した妻・小常とよく似ているという設定。
りくと一緒の時間を過ごしながら、永倉の心には、多くの人を斬り殺してきた自分の過去、京都に置いてきた娘の磯子のことなど、複雑な思いが去来する。
――あたかも、多くの人が行き交う橋上のように。

そしてまた、思いは自分の行く末のことにも及ぶ。
今後、旧御陵衛士らに命を狙われるおそれもあり、帰宅後、家老・下国東七郎(作中では七郎)に相談しようと考える。
この出来事を契機として、彼の人生はさらに変わっていく。
――向こう岸という別世界へ、橋を渡るにも似て。

作者は、現代小説を多数手がけており、時代小説は2作のみ知られている。
ひとつは桜田門外の変を描く「雪の朝」、もうひとつが本作である。
アンソロジー『新選組傑作コレクション 烈士の巻』の編者解説によれば、作者は以前から新選組に興味を持ち、また自身も剣をつかうことから、剣士の一生のある断面を切り取った心理小説を書いてみたかったと、執筆の動機を語ったそうだ。
作者作品集のほかにも複数のアンソロジーに収録されるなど、掌編ながら評価は高い。

初出は『別冊文藝春秋』1968年10月号。
下記の書籍に収録されている。

『夢のあと』 講談社 1973
『立原正秋選集 第7巻』 新潮社 1975
『夢のあと』 講談社文庫 1976
『代表作時代小説 第15巻』 東京文芸社 1989
『新選組傑作コレクション 烈士の巻』 河出書房新社 1990
『人情交差点』 福武文庫 1995
『立原正秋全集 第11巻』 角川書店 1983初版/1997新訂版
『幕末剣豪人斬り異聞 佐幕篇』 アスキー 1997
『慕情深川しぐれ 新選代表作時代小説〈5〉』 光風社文庫 1996/1998
『新選組烈士伝』 角川文庫 2003

新選組烈士伝
(角川文庫)




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