新選組の本を読む ~誠の栞~

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 直木三十五「近藤勇と科学」 

短編小説。近代火器の威力を軽んじていた近藤勇が、甲州勝沼戦争で敗退する経緯を描く。

鳥羽伏見戦争。
新選組は旧幕軍の一翼を担い、刀槍をもって戦う。
しかし、新政府軍の銃撃にまったく歯が立たず、多くの同志を失う。
不面目ながら、敵に後ろを見せて逃げ出すしかなかった。

大坂城で療養していた近藤勇は、土方歳三から経過を報告されるが、火器の性能差による敗退を信じられない。
甲府城を本拠として新政府軍と戦う計画を立てるが、土方が大砲や小銃、それらを操作する兵を集めようとするのに賛成しないばかりか、むしろ止めさせようともする。

寄せ集めの兵で一隊を組織し、甲府へ向け進発したものの、甲府城は一足先に新政府軍に占領されてしまった。
やむなく柏尾に布陣し、敵を迎撃する。
ところが、味方は大砲をまともに操作できず、敵の遠距離からの射撃に兵が次々と倒される。

近藤は、衝撃的な驚きを覚えるが、最早なすすべがない。
近代火器という科学の力に武士が敗れ去る、新たな時代の幕開けでもあった。


多くの味方が戦死する負け戦をふたつも描いているにもかかわらず、それほど悲惨な印象はなく、むしろユーモアを漂わせる作品。
新選組の面々の、あまりにも古色蒼然とした認識や行動が可笑しいというだけでなく、どこか牧歌的な雰囲気がある。
結びの部分も、まるで落語の下げのようにすとんと終わって、呆気にとられてしまう。

それに加えて、作者の新選組に対する認識もすごい。
本作の新選組は、大砲や小銃などろくに触ったこともない有様。
伏見敗退後、ようやく土方が導入しようとするが、近藤はなお懐疑的。それどころか、小銃の飛弾も訓練すれば見切って避けることができる、などと真面目に考えている。
また、伏見で戦死した隊士の中に、なぜか谷周平や藤堂平助が混じっていたりするのもご愛敬。

本作の初出は『文藝春秋増刊・オール読物号』(1930)への掲載。
これより2年前に、子母澤寛『新選組始末記』が出版されている。
そういう時代のクラシカルな趣を楽しめる作品である。

本作は、下記の書籍に収録されている。
『大衆文学集 第4集』(全4冊) 新潮社 1928-1931
『新選組興亡録』 角川文庫 2003
『巌流島』 フロンティア文庫 2005

新選組興亡録
(角川文庫)




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