新選組の本を読む ~誠の栞~

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 司馬遼太郎『アームストロング砲』 

短編小説集。幕末維新期を生きた様々な男達を活写する9編。
収録作のうち、新選組に関わるのは「薩摩淨福寺党」「壬生狂言の夜」「大夫殿坂」「理心流異聞」の4編。

「薩摩淨福寺党」
薩摩藩士・肝付又助の無謀な志士活動の顛末を描く。

乱暴者揃いの淨福寺党の中でも、名うての強者で命知らずの又助。
尊王攘夷のためと信じて、会津藩と新選組に喧嘩を売りまくり、巧みに捕縛・報復を逃れる。
しかしある日、大石鍬次郎をはじめとする新選組の4人と、ついに対決することになる。

新選組でさえ持て余す、又助の狂気じみた嫌がらせの数々は、どことなくユーモラス。
切った張ったのあげくに死亡者が出るストーリーにもかかわらず、陰惨な感じはしない。
「闇鉄砲」という、ロシアンルーレットのごときゲームが凄まじい。

「壬生狂言の夜」
新選組副長助勤・松原忠司の心中事件を描く。

松原は、紀州浪人・安西角右衛門を斬ってしまった。
そしていつしか、その妻お茂代と惹かれあう。
目明かしの与六が、土方歳三の密命を受けて松原の身辺を探るうち、事件の隠された真相を知る。

『新選組血風録』『燃えよ剣』の連載開始よりも、2年早く発表された作品。
子母澤寛『新選組物語』所収の「壬生心中」に着想を得たと思われる。
「男の真贋」を、骨董(陶磁器)の鑑定になぞらえた描写が面白い。
土方の策謀の真意が、最後に判明して慄然。ただ、その理由が明確にされないため、やや割り切れなさが残る。
心中した松原とお茂代が哀れであると同時に、与六の流す涙が切ない。

「大夫殿坂」
津山藩士・井沢斧八郎が、兄の死の真相を究明する経緯。

亡き兄の後を継いで大坂の蔵屋敷に赴任した斧八郎。
兄の死は何者かによる斬殺と聞かされ、さらに自身までもが命を狙われる。
やがて、新選組隊士の浄野彦蔵が兄を斬ったと知り、脱藩して仇を討とうとする。

浄野彦蔵が斧八郎の兄を殺害した理由は、実にくだらない。
それを知らないまま仇討ちに望む斧八郎が、気の毒にも思える。
新選組の威勢を表すため、大坂西町奉行の与力・内山彦次郎暗殺事件にも言及している。
(作中では事件の犯人を新選組としているが、真相は未だ解明されていない。)
本筋もさることながら、当時の蔵役人の腐敗ぶりや、「風呂」と呼ばれた性風俗店の様子が興味深い。

「理心流異聞」
柳剛流の剣客・平岡松月斎と、沖田総司との対決。

勢力拡大のため、天然理心流の地盤を狙う平岡一門に対し、敢然と挑んだ沖田。
だが、脚を撃つ柳剛流の奇法に悩まされ、決着をつけられない。
そのまま浪士組に加わって京へ上り、倒幕派に与する平岡に再び遭遇。
自ら編み出した戦法を用いて勝負する。

『新選組血風録』『燃えよ剣』の連載開始と同年に発表された作品。
沖田の負けん気が頼もしく、小気味よい。
平岡との因縁の対決は、『燃えよ剣』に描かれる土方歳三vs.七里研之助の関係を彷彿とさせる。

他の収録作品は、下記のとおり。
「倉敷の若旦那」 志士を気取る素封家の婿養子・大橋敬之助の「義挙」と、その結末。
「五条陣屋」 代官所に私怨を抱く、倒幕かぶれの乾十郎が、天誅組に便乗して代官所を襲う。
「侠客万助珍談」 侠客・鍵屋万助が、堺事件にあやかって一儲けする。
「斬ってはみたが」 鏡心明智流の剣客・上田馬之助の剣技と、到達し得なかった境地。
「アームストロング砲」 佐賀藩の技術者らが、苦難の末に最新式の高性能大砲を完成させる。

講談社文庫(初版1988/新装版2004)が出版されている。

なお、それぞれの作品は、別の書籍にも収録されている。

「薩摩淨福寺党」を収録する書籍は、下記のとおり。
『司馬遼太郎傑作シリーズ 第1-2』(2冊) 講談社 1966
『司馬遼太郎全集 31』 文藝春秋 1974
『慶応長崎事件』 講談社 1985
『司馬遼太郎短篇全集 第9巻』 文藝春秋 2005

「壬生狂言の夜」を収録する書籍は、下記のとおり。
『果心居士の幻術』 新潮文庫 1977
『司馬遼太郎全集 31』 文藝春秋 1974
『慶応長崎事件』 講談社 1985
『新選組烈士伝』 角川文庫 2003
『司馬遼太郎短篇全集 第3巻』 文藝春秋 2005

「大夫殿坂」を収録する書籍は、下記のとおり。
『司馬遼太郎全集 12』 文藝春秋 1973
『剣鬼らは何処へ』 講談社文庫 1977
『美濃浪人』 講談社 1984
『代表作時代小説 第8巻』 東京文芸社 1978/再版1984
『人斬り以蔵』 新潮文庫 2004
『司馬遼太郎短篇全集 第5巻』 文藝春秋 2005

「理心流異聞」を収録する書籍は、下記のとおり。
『司馬遼太郎傑作シリーズ 第6』 講談社 1967
『司馬遼太郎全集 12』 文藝春秋 1973
『美濃浪人』 講談社 1984
『秘剣、豪剣、魔剣 時代小説の楽しみ 1』 新潮社 単行本1990/文庫版1994
『新選組興亡録』 角川文庫 2003
『司馬遼太郎短篇全集 第6巻』 文藝春秋 2005

アームストロング砲
(講談社文庫)
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